社会に出てからの一年は、何もかもが新しくて、これまでのどんな時期よりも怖くて、でも学ぶことが多い時間だった。せっかくなので、学んだことを三つ、文章にしておきたいと思う。
1. 国ごとに、社会の成り立ちかたが全く違う
アメリカは、そもそも人口が多いこともあり、貧富の差が非常に激しい。家賃が高騰しているベイエリアでは、物価上昇に取り残されてホームレスにならざるを得なかった人々がたくさんサンフランシスコの路上にいる一方で、テックバブルに乗ったりスタートアップを始めたりして大金を手にし、超豪邸に住む人々も多い。同じ大卒でも、専攻や選ぶ業界によって収入に激しく差がつく。コンピューターサイエンス専攻の学生がソフトウェアエンジニアとして働き始めたら年収700~1000万円くらいからスタートすることも可能だ。一方で、私が前に志望していた出版業界だったら編集アシスタントとして年収300万円くらいからスタートになる。
また、日本では終身雇用制度の名残で一つの企業に長く勤めて、会社の制度に従って昇進していくという道がまだ現実味を帯びているのに対し、アメリカでは転職は当然で、企業を変えつつステップアップしたり、自らマネージャーに掛け合ったりして、自分で「昇進」を推し進めてキャリアをつくるのが前提になっているように感じる。私も、働き始めて何ヶ月かで、仲のいい同僚たちに勧められて昇給の交渉をした。すごく勇気がいる10分間だったけれど、その結果、月収が18%増した。
まだ大学を卒業して一年もたっていないので情報不足の部分もかなりあるとは思うけれど、要するに、どうも社会の成り立ちがまったく違うみたいだぞ、ということを感じている。当然ではあるのだけど。高校大学とかなりのほほんと過ごし、「日本語も英語もわかるし、まあなんとかなるでしょ」とナイーブなマインドセットでいた私は現実に冷水を浴びせられた。私はできれば日本に帰らずにアメリカに残りたいのだけど、そのためには就労ビザを手に入れる必要があり、ビザ次第で日本とアメリカを行ったり来たりするキャリアの作り方になるかもしれない。それは逆にいえば、戦略的に人生を計画しないと日本にもアメリカにも属せない宙ぶらりんのステータスになってしまうかもしれないということだ。市民権がない国に根を張るということはとても難しいということを、この一年でよく学んだ。
2. 生きるにはお金がいる
また、今は仕事があるからいいものの、仕事がなくなったら固定収入がなくなることの怖さもしっかりと実感できた。アメリカでは正社員の解雇って結構よくあることなので、仕事があるからって安心できない。貯金をしないといざという時に生きていけなくなる。
3. 人生設計をするなら、多分、ゲームのルールを分かっていないといけない
私は大学で文学を専攻したこともあって、文化や芸術がすごく好きだ。できることなら高等遊民になりたかった。大学時代は、「読んで書くことを仕事にしたい」と思っていた。でも現代社会で、特に人口多いゆえ競争が激しいアメリカでは、「好きなものを追求さえすれば金がついてくる」というのはいつも本当とは限らない。そんなことを言ってくる大人は、善意で言ってくれていたとしても、私の人生に責任を取ってくれないのだ。だから、余裕を持って芸術を楽しむためにも、生活の組み立てはゲームと割り切ってプランしないといけないのかもな、と考えている。